2020年3月22日日曜日

【スペインの貴夫人とコロナのインフォデミック】
 パンデミックの最大のリスクはメディアによるインフォデミック”が恐怖心とヒステリー反応を暴走させる事である。
 2019年暮に新型コロナウイルスCOVID-19が武漢を襲い、瞬く間に世界中へ拡散した。20203月中旬にはイタリア、イラン、韓国などを含む150ヶ国以上で約21万人の感染者と1万人以上の死者が確認された。日本でもクルーズ船を除く814人の感染が確認され、高齢者を中心に24名が亡くなった。その後も感染は拡大し続けており、多くの国々が非常事態宣言や国境封鎖などで大混乱している。現時点ではCOVID-19の見かけの死亡率(1~3)はインフルエンザ(0.01%)より遥かに高いと思われているが、PCR検査をしてない無症状感染者も多いので実際の致死率はもっと低いと考られる。ヒト型コロナウイルスでは古くから4種類(HCOV)が知られており、大半の人は幼児期に感染して抵抗力を獲得している為に多くは無症状で経過するが、運悪く発症すると風邪に罹った事になる。"風邪は万病の源"であり、COVID-19でも特に高齢者の肺炎が高リスクとなっている。2002年広東省で発生して約8000人の罹患者中800人が死亡した重症急性呼吸器症候群(SARS 死亡率10%)及び2012年に中東や韓国などで約2500人が感染して860人が死亡した中東呼吸器症候群(MERS 死亡率40%)を加えると、COVID-19 (2種類)7番目のコロナウイルスである。
 人類の歴史は感染症との戦いであり、病原体は永遠の宿敵である。100年前に猛威を振るったスペイン風邪ではウイルスが米国カンザス州で兵士に感染し、シカゴからボストンを経由して第1次大戦中のヨーロッパへ運ばれて瞬く間に世界へ広がった。当時の世界人口は約15億人であったが、約5億人が感染して1億人以上が死亡した。この情報が戦時報道管制の無かった中立国スペインから発信された為に、米国生まれでありながらスペインの貴婦人と呼ばれた。この貴婦人は軍艦に乗って遥か極東の島国にも訪れ、横須賀港から日本に上陸して全土へ広がっていった。当時の日本人口は約5.500万人であったが、短期間に約41万人もの国民が犠牲となった。この大戦では約1700万人が戦死したが、貴婦人の犠牲者はそれを遥かに上回っていた。この貴夫人により徴兵可能な男子が激減して大戦の終結が早まったとも言われている。感染症は軍隊に付いて来ると云われる所以である。
 パンデミックや大災害時には不確かな情報や数値が独り歩きして過剰なヒステリー反応を誘発し易い。COVID-19コロナの仲間である事からメディアに煽られた恐怖心が世界中に拡散され、マスク、消毒用アルコール、トイレットペーパーなどが店頭から消え、病院の必需品まで不足する事態に陥り、入国制限、外出禁止、経済活動の自粛などで世界恐慌的な二次被害を深刻化させている。不特定多数の人々が世界中を駆け巡るグローバル社会では病原体も一緒に旅をしているので空港や国境で彼らを封じ込める事は実質的に不可能である。武漢の貴婦人が短期間で五大陸へ拡散したのもその為である。新興病原体は抗体の無い人々に感染し、突然変異で変化したり集団免疫力が確立されると流行が下火になる。毎年晩秋に目覚めるインフルエンザも2月頃にピークを迎えて桜の季節と共に収束していく。人類と病原体の痛み分けは生物進化の不可避的現象なのである。季節性インフルエンザでは毎年米国で数千万人が罹患して約3万人が死亡し、日本でも約2千万人が感染して3000人以上が亡くなっている。今回のコロナ騒動では手洗いや嗽などの習慣が広まり、昨年と比べて インフルエンザの発症数が 約600万人も減少した。手洗、嗽、過密状態回避が貴婦人への有効で正しいオモテナシなのである。今回は唐突な休校措置が強行されたり大阪〜兵庫間の往来自粛などで混乱が深められているが、インフルエンザでは数千万人が感染して20%以上の生徒が発症した場合に1週間程休校すると有効である事も判明している。 新興感染症では想定外の惨事も起こりうるが、近年の感染症史は人類がそのリスクを確実に軽減してきた事病原体自体よりもインフォデミックによる人災が遥かに被害を大きくしてきた事を教えてくれる。深刻化する世界的インフォデミックに翻弄される事なく「感染症を正しく怖がり冷静に対応する事」が大切である。日本では疾病管理予防センターの設立、デジタル化による遠隔教育、テレワーク、働き方改革、病的過密通勤地獄の解消など、日々の経済活動と共存しうる新時代の感染症対策として有効な課題が山積みである。桜を観る会も些細な国難ではあるが、今春こそ満開の桜を愛でながら心の免疫力を強化したいものである。